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Concerto Suite Premiere Performances
Inside story report by Yoko

14/JUNE/2001 Sumida Triphony Hall


もうかれこれ、何時間続いているだろう。彼にとって目的は一つだ、許された時間内で最高のレベルに曲を仕上げること、なぜならオーケストラアレンジされたとはいえ元は自分の曲、気に入らなければとことん食い下がる。合同練習3日目前半。『新世紀』以外の曲の通し稽古のはずだった。しかし彼は平気で演奏を途中で止め、指揮者竹本氏やアレンジャーにしっくりいかない部分、リズムや音がイメージと異なる部分を訴える、そして楽譜の修正、1小節レベルでの追加や削除を繰り返す。昼から始まった稽古も、すでに夕方遅くなっていた。楽団員にも疲労の表情が見えてきた。15分ほどの小休憩のとき、今日も夜中かなぁ〜というひそひそ声がした。指揮者も、楽団員と、作曲者でありソリストでもあるYngwieの両方に気を使う、全員の志気が下がらないよう、しかしプロフェッショナルに仕事を進めるべく・・・

とりあえずは全曲通しが終った、Yngwieが汗だくで楽屋に帰ってくる、表情が厳しい。1時間ほど休憩してコンチェルト『新世紀』の通し稽古である。あてがわれた自分の部屋に入る直前彼はこう言った。

『次が問題だ、おれは曲を全然覚えきれてない』

アレンジャーが彼の後を追いかけて部屋に入る、指揮者も入ってゆく、休憩時間であって休憩時間ではないようだ・・・

私が軽食を終えてトンボ返りで戻ってみると、彼の部屋からはすでに防音扉を通して『新世紀』のギター演奏が漏れていた。弾きまくっている。ほとんど休憩はとらないつもりらしい。

そして夜7時すぎ、『新世紀』の通し稽古が始まった。客席にはレコード関係者や楽団関係者がちらほら。
ステージに現れたYngwieの表情は硬く真剣なものだった。

一斉に唸りだすオーケストラ、そして痺れるギターのチョーキングからスタートする第1楽章、まさに世紀の瞬間だった。客席最後方に座った私は、サウンドの美しさアンサンブルのすばらしさに頭のてっぺんまで痺れた。正常な意識がふっ飛んだ!あとは夢の中を漂うようなそんな感覚が体を支配した!

時がとまり、永遠につづくかに見えた。演奏は何度も途中で中断された、タイミングがあわないと、何度でもやり直した。すべてが終った今だから言えるが、リハーサルにおいてさえYngwieのプレイは全開だった、エモーショナルで速い、力の限り全力をたたきつける、まるで客席いっぱいに観客がいるかの様にポーズをとり首を振る。とにかく真剣。

最後まで演奏が到達し、確認のすべてが終ったとき、時計はすでに午後9時を回っていた。Yngwieが会場一番乗りでウォーミングアップを開始してから、数えてかれこれ8時間以上、彼はほとんど立ってギターを弾きどおしであった。楽団員から穏やかに拍手が起こる。そして解散。やれやれ今日はきちんとそこそこの時間に終ってくれてよかったわねという声が聞こえた。『それにしても彼、気合い入ってて凄かったね、驚いちゃった・・・』女子トイレで聞いた会話である。

バックに戻って来たYngwieは私の顔を見るなりこういった
『失敗、失敗、沢山失敗したよ、練習だってのに、あがっちまった!!』

そういいながらも彼は笑顔だった、さほど疲れた様子はなく、むしろオーケストラとの稽古は彼にとって、とてもエキサイティングな経験なのであろう。新日本フィルの演奏を絶賛し、指揮者を絶賛した。
『すばらしい、全くすばらしい、完璧だ、彼らに比べたらチェコフィルなんて○×□▲・・・』
だが、すぐ真顔になって首を振ると、やや落ち込んだ顔をしてこういった。
『問題なのは俺のほうだ』
みづからのおでこを指差しこう言った
『彼らには楽譜があるんだ、でも俺には何もない、ここの中が問題なんだ、俺の記憶力だよ。』
『でもまだ明日がある』
一服して汗を拭いたぐらいの時間が過ぎたころ、再びアレンジャーその他関係者や指揮者が彼の部屋を出入りし始める・・・深夜まで打ち合わせがつづいた・・・

15/JUNE/2001 Sumida Triphony Hall

お断り:一部の写真は17日に撮影した物を使用しております(yoko)

今日は初日である、しかしYngwieにはその前にゲネプロと呼ばれる、本番直前に本番と全く同じ段取りで行う総通し稽古が待っていた。これはマスコミや関係者すべてに公開される。

またもや会場に一番乗りしたYngwieは、今回唯一同行しているギタ−エンジニアのパベルとともにさっそくギターの調整とウォーミングアップを開始する。

裏方さん以外はほとんど居ない会場はとてもがらんとしている。
日本側スタッフのサウンドエンジニアはすでにYngwieの到着にあわせて会場に待機していた
総合練習まで、まだ2時間以上ある

『すこし緊張してる』
Yngwieは独り言のようにつぶやいた
Yngwie、目の前のビールの缶をしばしにらみつけて、顔をあげた。
『誰かにダイエットコーク買って来てって頼んでくれるか?』
『いいよコンビニに行って買ってきてあげる、おごってあげるよ』
『おう、じゃ次はおごるぜ』
私はコンビニに走った
しばらくして戻って見ると、先ほどと同じように会場にギターの音を響かせていた
ゆっくりと心行くまで音だしをしている
『はい』
『ありがとう!!やった!!』子供のような笑顔。
買ってきたコーラをうれしそうにラッパのみして、再びギターにむかう。
響きをたしかめ、ギターそのものの最終微調整は自らの手で行ってゆく。
パベルに弦の張り替えをさせているあいだ、自分はチューニングをする。
ギターお宅が二人で頭を寄せ合って、ああだこうだとネジやぺグの調整を繰り返す。
ついに音が満足な状態になるとYngwieはギターを置いて暇そうにきょろきょろし始めた。
手持ち無沙汰にステージをうろうろ
キーボードに向かい、こっそりメロディーを奏でる、彼は片手だがしっかりと弾けるのだ
しばし休憩したのち彼は急にギターを持った、
意を決した様子で、真剣にコンチェルトの各パートをアトランダムにおもいつくまま弾き始めた、延々と、延々と、かなり真剣に・・・
練習開始30分前、オーケストラの人が三々五々集まってきて、練習を開始する
Yngwieは彼らの邪魔をしないため、ギターを抱えて与えられた個室(ドレッシングルーム)に向かった
防音ドアが閉まる、しかし、かなりの音量で音が漏れてくる、再びコンチェルトのメロディが聞こえてきた・・・
総合練習開始の呼び出しがかかるまでずっとその状態が続いた

通し稽古
ブラックスターのオーケストラが始まった。舞台の袖でそれを眺めるYngwie
彼は出番を待ちながら天井を仰いだ、恍惚とした顔をしながら、リズムをとり、メロディーと演奏の美しさに浸っているようだった
私は観客席の最後方に陣取るべく移動した、練習の邪魔はしたくない
プログラムのとおりに曲をつぎつぎと演奏してゆく
昨日までの2日間かなりの注文つけつづけたロック曲のアレンジも
今日は何も言わず、黙々と決めたとおりに演奏する、完璧である。
指揮者が、たまにはっとしてYngwieを見る
あまりにも彼は真剣勝負で入れ込んでいた、まるでもう本番が始まったかのようである
演奏曲の区切りが付くたびに、ぱらぱらと拍手が起こる
観客席にローゼンサル氏他レコード会社関係音楽関係者の姿がちらほらしているみんな真剣な表情で彼を見ている
勢いで最初の5曲を演奏し、指揮者と出始めのタイミングなど綿密に打ち合わせたの
ち1時間の小休憩となった


小休憩をはさんで、次の部は『新世紀』である
彼はドレッシングルームに篭ったままついに出てこない
2次練習開始、ミレニアムの通し稽古
それはもう、筆舌に尽くしがたい、壮絶な姿だった、昨日のミレニアムの初総通しではかなり舞上がってしまい演奏そのものが良くなかったのを気にしていたYngwie、もはや本番も練習もない状態で、テンションが最初からハイギア状態、その弾きぷりのすごさに関係者はうなりを上げた・・・
すごい!!私も痺れた、練習のVivaceで涙が出た
そしてアンコール用のFar〜、今回出色のアレンジであろう、もう聴くものをとりこにせざるをえないYngwieワールドの集大成のような出来だ

練習が終わって、楽団の拍手大喝采を背負って、意気揚揚と舞台裏にもどって来た彼は、汗だくだったが稽古の手ごたえに満足したのか、大またで勢い良く歩いていた、その顔は笑っていた。彼は再びドレッシングルームに消えた

ところが・・・
会場10分ほど前だった
Yngwieはステージ衣装を着てバックステージにやってきて、熊のようにそこいらをうろうろしだした
『ねえ、そのドレスアップしたかっこいい衣装の写真とらせて』と私
彼は周りを見渡した
『会場はもう人がいる?』
『いえ、あと5分はだいじょうぶよ』
『じゃあ、中はいっていい?』
『そっちで写真とる?』
『ああ』
彼はドアをあけ、ステージに進み出た
ギターは持っていない、
手を腰にあて、ステージから誰もいない会場を見渡す
大きなため息をついた
すっかり、会場の雰囲気に感じ入っている様子であった
ふと何を思ったのか、私からペンを借りると、彼は譜面台にある自分のメモ紙に何やら思い出しながら書き込み始めた。最後の覚え書きなのだろう。譜面台に戻された小さな紙を見たが、意味不明の記号とコードだけであった。天才のメモは、他人ののぞき見を拒絶していた。

いつのまにか、彼は会場に背をむけ、ほんの数人最後の練習をしているステージに向いて天井をあおいでいた。
防音カバーに手をあて、オーケストラの席や指揮台を見渡す
その顔には微笑みはなかった、ただでさえ白い肌が青白く見えた
私はカメラを構えた、彼は無理やり笑顔をつくろうとしてやめたように見えた
1枚だけ観客席に背をむけた、自称ウオルフガングアマデウスヨハンイングヴェイマ
ルムスティーンをファインダーに収めた。


そして彼はもう一度会場を一瞥し、舞台中央から袖に戻った
何度も大きなため息ともとれる深呼吸をしていた
『何時開始?』
『7時だよ』
『時間まで部屋(ドレッシングルーム)にいるよ、またあとでな』
そういって彼は個室へ消えた
しばらくしてドレッシングルームからは再びギターの音が漏れてきた・・・

会場
私は会場してステージ前にファンが群がる様子をモニターで見た
ギター弾きのファンが多数来ている、当然ながら当日のサウンド設定を最も気にしていることだろう、そう、そう、みんな食い入るように設定されている機材を眺めている。さわらないでね・・・
客席の自分の席に行ってみたが落ちつかなかった
そうこうしているうちに開演時間まであと5分を切った

オープニング ブラックスター
オーケストラアレンジは原曲にかなり忠実である、しかし、いきなり頭の中が痺れるせつなく美しいメロディーである、ロックのリズムよりかなりゆったりとしてとしているが、それでいて力強さもある、本当によいメロディはこのようにアレンジしてこそ、その真価を発揮するということであろう

曲が終わり、指揮者が拍手の舞台の袖に引っ込む、Yngwieを呼びに行っているのだ
やがて緊張にこわばった顔のYngwieが現れた、満員の会場を見渡す
Yngwie!!マルムースティーン!!ヨハーン!!という声があちこちからあがる、アントニオ!!の声に彼がくすくすと笑い、急に眼がきらきらと輝いた、すこし自分を取り戻したようだ
そう、いつもの調子でやればいい、尊大なマルムスティーンで!!
いよいよ本番の幕があがった....



エピローグ

大の仲良しになった竹本さんとのツーショット(最終日)そしてYngwieは早くも次の目標を見据え、台湾コンチェルト指揮者との打ち合わせを開始(写真Yngwieの左の人)

コンサートが終った日の夜、自分の楽屋の前で、ビールの缶を片手に、いすに座り込むYngwieが居た。
放心状態で、人々が後片づけをするのをただ呆然と眺めている。

『ついにやったね』
『ああ。やった、俺は200%全力を尽くした、良い出来か悪い出来かは今はわからない、判断するにはもう少したって冷静になる必要があるだろう。でも今はいい気分だよ・・・俺は今、亀モードなんだ・・・』

彼の最後の謎の言葉を解釈するのは簡単だ、もう手も足もでないほど疲れている、亀のようにしか行動できないということだろう。

ごくろうさん、ほんとうによく頑張ったね!!Yngwie!!
yngwieと竹本さんの共演記念サイン

応援に駆けつけたデイブローゼンサル氏のサイン

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