☆★☆★☆★☆★☆ Yngwie is God! ☆★☆★☆★☆★
私の愛読書に次のような一節がありました。
「ワーグナーは信奉者を引き連れる。それに対してモーツァルトは
愛好者をまわりに集める。」
王者会心の一撃とも言える「Alchemy」が発売されて早いものでも
う三週間が経とうとしています。この間、私のCDプレイヤーのター
ンテーブルを独占し続けてきたこの作品について考えることは人
それぞれだと思いますが、ここでは私個人の勝手な感想を綴って
みたいと思います。
まず、聴いていて思ったことは、「Alchemy」は各曲がこれまで以
上に長く、ギターは当然のこと、あらゆるパートがとても充実した
役割を果たしていて、よほどの集中力を持っているか良い耳を
持っている人でもない限り、おそらく2〜3回流しただけでは全体
像すら掴めないような「濃い」アルバムではないかということです。
王者自身も語っているように、この作品は火が吹き出るような熱
い「ギター・アルパム」であることは間違いありません。誰もが一
度CDプレイヤーをスタートさせたら最後、洪水のように押し寄せ
てくる王者のフレーズに身を任せるしかないでしょう。
かって Mozart のオペラ「後宮からの逃走」を御覧になった皇帝
ヨーゼフ2世は「音符が多すぎる…」と御下問されたという有名な
エピソードがありますが、果たして皇帝陛下が「Alchemy」をお聴
きあそばしたとしたら何とおっしゃるでしょうか?
まるで何者かに取り付かれたかのように神懸り的な超絶フレーズ
を緩急を付けながら連発する王者、時に天空を駆け巡る天使長
ミカエルのように、また時に地獄の底から響く悪魔の雄叫びのよ
うに激しく聴く者の魂を揺さ振る Mark の熱唱、そして強固に屋台
骨を支えるリズム隊… 「Alchemy」は聞く者を引き付け、決して離
さない、何か魔物のような魅力が秘められている作品だと思います。
先の皇帝陛下がもしも「Alchemy」をお聴きになったら間違いなく
「too many notes,too much energy」と顔をしかめられることでし
ょう。
誤解されては困るのですが、私が「Alchemy」を「濃い」アルバム
だと書いたのは決して音符の多寡を捉えて言っている訳ではあ
りません。そこには王者の王者たる何かが全てのパートに強烈
にバイブレーションとして脈打っているのを感じてしまうからなの
です。
もちろん、最終的にはどんな音楽も音符というもので具現化され
ることは否めません。しかし、結局のところ、「Alchemy」の各楽曲、
全てのパートは紛れもなく王者の築き上げた独自のセオリー、王
者の磨き上げた独自のセンス、そして王者が培ってきた熱いハ
ートによってまるで精密に組み立てられたモザイク画のように精
緻に奏でられているからこそ私達はこんなにも感動するのでしょう。
私達はそのような王者のセオリー、換言すれば唯一無二の「王者
の刻印」を意識しないうちに知ってしまっているのです。
良く考えてみますと、現在ではネオ・クラ派なるもの自体が細分化
されているようにも思えます。また、ネオ・クラ派とは無関係な領域
の音楽でありながら王者ばりのギタープレイを聴くこともできます。
そして雨後のなんとかみたいに出現したフォロワー達の間にも王
者とは全く無関係に「勝手に」世代交代の波も押し寄せました。
そんな中にあって王者はデビュー以来一貫して「天上天下唯我独
尊」、常に自身のクォリティーを高めながらもネオ・クラに止まらな
い他の領域へのアプローチを含めた「進化」を試みてきたことは
周知の事実です。
「Alchemy」を聴いても、例えば後半の「Hanger 18 Area 51」に代
表されるスピード・チューンの全てに私達は王者が着々と修得し
てきた優れたメロディーを発見することができます。
また、「Blitzkrieg」や「Asylum」においても十八番といえる必殺パッ
セージと伴にさらに高度なスキルに基づいた高速リックを聴くこと
もできます。
「Alchemy」における王者のギタープレイに関する詳細・解説につ
いては私はこのHPに登場されるギタープレイヤーの皆さんにお任
せしたいと思いますが、門外漢として思うことは、王者はネオ・クラ
派ギタリストの創始者と言うよりもそのギタースタイルのみならず
ソング・ライティング全般も含めて「Yngwie Malmsteen派」という誰
も考えも到達もできなかった独自のブランドをとっくの昔に確立して
しまった100%ピュアなオリジナルだということです。
そのような意味において、私はどこから、どのように聴いてもオリジ
ナルである王者の手によって培われ、磨き上げられた「刻印」が
隅々まで行き渡った「Alchemy」を「濃い」アルバムだと申し上げた
訳です。
さらに、運命の不思議な悪戯かも知れませんが「Alchemy」には
もう一つの重要な側面があるような気がしてなりません。
雑誌の記事によれば、王者はアルバム制作について自らの無計
画性を強調されていますが、「Alchemy」が最近数年以内に発表
された過去の作品と密接な関係にあることは明白です。
つまり、前人未到のクラシック界への進出を果たした「Millennium」、
ソングライターとしての成熟を遺憾無く発揮したメロディー(楽曲)
重視の「Facing the Animal」、そして Yngwie派ギタリストのパイオニ
アとしての自負と自身を改めて万人に知らしめた「Alchemy」…
この三作品は今世紀におけるハードロック史の産み出した一つの
可能性とその輝かしい成果を総括する、まさしく王者の第二革命
期における新三部作と呼べるものではないでしょうか?
個人的に「Alchemy」はそのような新三部作を締めくくる名作では
ないかとも思うのです。
その意味おいては王者のヒストリーの中で初期の「Rising Force」
や「Marching Out」のような極めてアグレッシブなギターアルバムで
ありながら「Eclipse」以降のメロディックかつ幅広い音楽的視野とい
う異なった2つの性格を併せ持った「Alchemy」の持つ意味は誠に
重要であると思わざるを得ません。
王者は「Alchemy」の制作意図の一つとして「世に氾濫するフォロ
ワー達を黙らせる」ことを掲げておられますが、個人的には「Alchemy」はそのよう
な製作者自身の小さな動機付けをも遥かに
超越してしまった驚くべき内容を有する作品ではないかと思います。
その驚きを端的に示している一例が、私が「Alchemy」の中で最も
注目し、気に入っている「Leonardo」ではないでしょうか? 教会
音楽という新分野のモチーフを大胆に取り込みながら、重厚で難
解なメロディーラインと整然と考えられたギターソロ・パートを配した
構成美は王者の16年余に亘るヒストリーの中においても最高の
玉座に位置づけられるに相応しいものであると確信できます。
まさしく、「古くて新しい Malmsteen music」のバイブル、王者の過去
と現在を一度に理解できてしまう「Alchemy」という名作を一曲で体
現している名曲であると思えてなりません。(皆さんご指摘のように
God is God は蛇足でしたが…)
「閑話休題」
このように、自身の信じる道を驀進している王者は幸せ者です。
「Alchemy」を手にした方のほとんどが王者に対して程度や着眼点
の違いこそあれ、皆一様に期待していると思います。ある者は
「Alchemy」に狂喜乱舞し、またある者は「Alchemy」に失望のため
息を漏らしたことだと思います。しかし、誤解してはいけないことは
「Alchemy」は決してヒーリング音楽ではないということです。
制作条件等、色々と制約はあるかと思いますが、王者は常に熱い
メッセージを込め、その時々のベストを尽くして数々の名作を産み
出してきました。また、その時に至らなかったこと、気に食わなかっ
たこともその次、またはその後の作品を新たに産み出す原動力に
昇華してきたことはこの傑作「Alchemy」が証明しています。どんな
方でも一度王者の熱いソウル、その甘美な刻印を知ってしまうと
その再来を切望してしまうものなのかも知れません。期待のない
ところに失望も落胆もないのですから…
私達は王者の信奉者でもあり、愛好家でもあるはずです。
これは全くの私見ですが、王者が私の期待を裏切ることはありま
せんでした。また、何よりも王者はフィンガー・ボードの上を踊る
御自身の指先よりも速く未来へと進化している現在進行形なの
です。
近い将来、「Alchemy」の世界的なリリースによって世界中に王者
の信奉者や愛好家が溢れかえることを祈って止みません。
新三部作にはどこから聴いても真のハードロック・マニアを魅了し
てしまう魔力が秘められていると確信しています。そして、その総
括編にあたる「Alchemy」こそが現在の王者の真の姿を知る決定
打なのでしょう。
後世の評論家は計らずも記すかも知れません。
「20世紀末に彗星のごとく現われ世紀の狭間に驚愕の美音楽を
轟かせた Yngwie Malmsteen はたった one note で信奉者を産み
出した。」 と……